出産してからというもの、
自分にかける時間はほんとうに減ってしまいました。
赤ちゃんが寝ているうちに、
洗濯をまわして、おむつを替えて、ごはんをつくって。
……気がつけば、朝なのか昼なのかもわからず、髪の毛にはカピカピの米粒。
鏡に映る自分に「……誰?」とつぶやいた日もあります。
それでもなんとか髪は、切りたい……
けれど今までみたいに美容院で1時間も2時間も切っていられない!
そこで、「時間がかからない」「近い」「安い」という理由で、
床屋さんに行きはじめました。
カットだけで30分。予約も不要。
まさに“秒でカット、秒速退店”。
でも、どこか「はい、終了!」と、
スッキリはするけれど、気持ちまで“さっぱりしすぎて”しまったような感覚が残っていました。
でもこの生活リズムのなかでは、それが“ベストな選択”。
すっかり床屋さんの常連さんになっていました。
それから1年半。
ふと友人からこう言われました。
「美容院、もう行けるでしょ?」
あれ…たしかに!
子どもも1歳半を過ぎ、2時間くらいなら夫にお願いできる。
「行ってこようかな…」
そう思った直後に浮かんできたのが、
「でも、美容院って高いよね」という心の声。
このとき、私は初めて気づいたんです。
「床屋か美容院か」の選択は、
単純な“値段の比較”ではないということに。
大切なのは、
「その選択が、自分の気分に、エネルギーに、どんな影響を与えるか」。
床屋さんで髪を切ると、スッキリはするけれど、
どこか「これでいいや」と思ってしまう。
一方で、美容院に行くと――
シャンプー台に横になった瞬間から、心がほどけていくような感じがする。
美容院は、空間そのものが“自分を整える”ためにつくられていると感じます。
やわらかな照明に、さりげなく香るアロマ、おだやかに流れる音楽。
椅子の座り心地や鏡の高さまでもが、
自分をていねいに扱ってもらえているような、満たされた気持ちにさせてくれるのです。
明るくて洗練された空間、
ていねいな接客、
プロの手で仕上げられていく自分の髪型。
「わぁ、自分がこんなに変わるんだ」
思わず笑みがこぼれる。
あの時間は、ただ“髪を切る”だけではなく、
“自分を整える時間”だったのだと気づきました。
一方で、床屋さんは「必要なことを、最短で終える場所」という印象。
無駄がなく、シンプルで、時間のない今にはぴったりの機能性があります。
もちろん、床屋さんで十分に気分が上がる、
居心地が良い、という人もいると思います。
そんなふうに“満たされる”なら、床屋さんがベストな選択。
大切なのは「どちらかが正しい」ではなく、
「自分がどう感じるか」なのです。
だからこそ、選ぶときに大切なのは、
「今の自分にとって、どちらが必要か」なのかもしれません。
そして何より――
「自分を大切に扱うって、こういうことかもしれない」
と、思ったんです。
私たちは、気がつかないうちに、
“自分のことをあとまわしにするクセ”がついてしまっています。
子どもが最優先、家族が最優先、
それが愛情だと信じてきたからこそ、
「自分にお金を使うこと」や「自分の時間をとること」に、
どこか“ためらい”や“罪悪感”を抱いてしまうことがある。
でもね――
お金は、「数字」ではなく「エネルギーの交換券」。
たとえ同じ金額でも、
「なんとなく」の選択と、「心が満たされる」選択では、
得られるエネルギーの質がまったく違います。
床屋さんの帰り道、私は「うん、こんなもんだね」と思っていた。
でも、美容院の帰り道は、気持ちがシャキッとして、
帰宅後に冷蔵庫の奥の“あのゾンビ野菜”とも向き合える気がしてきたりして。
これは、気分の問題“だけ”で片づけられるものではないのです。
気分が変われば、表情が変わる。
表情が変われば、人間関係が変わる。
人間関係が変われば、人生の流れそのものが変わっていく。
だからこそ、いま“いい気分になれること”は、
やがて“いい人生の流れ”を生み出す小さなきっかけになるのです。
たった一度の選択が、
思いがけない未来を連れてきてくれることもあるから。
だから私は、「気分が上がるかどうか」を、
お金の使い道の判断基準にしてもいいと思っています。
それは決して“浪費”ではなく、“未来への投資”。
もし、美容院に行くことで
「私は自分を大切にできている」と感じられるなら、
その感覚こそが、
自分自身への信頼や、自尊心を育てていく力になるのではないでしょうか。
そしてその自尊心は、
これからの人生で何度も、あなたの背中を押してくれるはずです。
お金の使い方には、もうひとつの物差しがある。
それは「自分の気分が、エネルギーが、どう変わるか」。
美容院に行くと決めたとき、
それは「贅沢」ではなく、「自分と未来を整える」という選択になるのです。
今日、私はちょっと背筋を伸ばして、美容院に行ってきます。
そこでまた、新しい自分に出会える気がしています。
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